あとがき そして明は・・・ その3
「俺はここの病院がとても綺麗で中はどうなっているのか見てみたかっただけです。」
彼はゆっくり顔を上げると看護師を睨みつけ今度は怒鳴るように
「なのにここの職員はひどい。みんなが見ている前で俺を捕まえて連行したじゃないですか!あれじゃ俺はさらけもんだ。ひどすぎる。」
と看護師に言い返した。すると看護師は彼から目を背けることなく
「あなたが、逃げなければこんな事にはならなかったのよ!なぜ、あの時逃げたりした訳?」
と机の上に両手を組ながら彼の反応を伺った。すると彼は少し言葉に詰まりながらも始めは小さな声で段々とまた叫んだ。
「俺はただ誰とも話したくなかったから、なんか話すのが面倒くさくて関わらないで欲しかったから。なのにあなたは無理やり俺の肩を掴み、逃げられないように攻撃して来たじゃないですか。俺は何にも悪い事をしてないのにそんな事されたら誰だって振り切って逃げるのは当たり前だろう!」
彼の体は話しを終える少し前から震えだしていたが、それを見ていた看護師は彼の震えを無視するかのようにまた話しかけてた。
「攻撃だなんて…。あなたを一瞬見た時からなんか胸騒ぎを感じたわ。あなたを見ているとまともな人間には見えない。まして平日の昼間からウロウロしていたらなおさらでしょう。篠崎さん、あなたさっき誰とも話したくないって言ったけど、どうしてなの?友人やご家族にもそうしてる訳?あなたは働かないで何時までもそうやってブラブラして行く訳?就職難は分かるけど、ちゃんと職を探しているの?もう46歳でしょう!」
看護師は厳しい質問をしながらも彼の心の中を探っていた。篠崎 明はまた黙ったまま下を向いてしまった。彼の横で立っていた二人の警備員もだんだんイライラし始め、とうとう一人の若い警備員が口を挟んできた。
「篠崎さん、帰りたくないんですか?素直にあやまってお開きにしましょっ!」
すると明は
「なぜ、俺が謝らなくちゃいけないんですか?何も悪いことしてないのに・・・。俺はあなた方を訴えますよ!」
と言い、立ち上がると目の前の机の上にある電話を受話器ごと取り、電話をかけ始めた。
「ちょっと、あなた!?何をしているの?」
年配の看護師は彼から受話器を取り上げようとしたが強引に彼は身体をまるめ受話器を抱えたまま話さなかった。
「おい、こら!」
年配の警備員が彼の服を掴むと、
「今、警察に電話しています。あなたがたの強引な態度の音と強引な声が向こうに伝わっています。助けて下さい!ここは、・・・」
彼は話している最中にいきなり年配の警備員に電話を切られた。すると看護師が
「分かったは、もう帰ってもいいわ」
って言って彼を返した。
明は病院を出ると何事も無かったかの素振りで人波へと消えていった。
一方、警備委員と看護師は警察が来た時の良い訳を考えていたが、結局警察の方は誰もこなかった。そしてはじめて篠崎さんの演技だったことに気が付いたのである。
その病院こそが菅野 海と晃が生まれた病院だった。そこの心療内科は海のお母さんとお父さんが掛かっていた内科で、その当時の担当医は今も健在している。
明が取り押さえられる1時間前に菅野 海は婦人科に行って診察を受けていた。海が帰る時に明はエスカレーターで彼女とすれ違っていたが、お互い気づくことはなかった。
おわり